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大阪地方裁判所 昭和42年(手ワ)4028号 判決

原告 森尾猛こと 西野茂三郎

右訴訟代理人弁護士 関田政雄

右訴訟復代理人弁護士 竹田実

被告 株式会社エーワンベーカリー

右訴訟代理人弁護士 中元兼一

同 中村俊輔

同 増田淳久

同 渡辺慶治

主文

原告の第一次的請求を棄却する。

予備的請求につき、被告は原告に対し金一、一六三、七八六円及びこれに対する昭和四二年六月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金四〇万円の担保を供するときは、その勝訴部分に限り仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は第一次的に「被告は原告に対し金一、二八二、四五〇円と、これに対する昭和四二年一〇月二〇日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、予備的に主文第二及び第三項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、

第一次的請求の原因として、

「原告は被告振出にかかる、別紙目録記載(1)ないし(3)のとおりの約束手形三通の所持人であるところ、これを各満期日に支払のため支払場所に順次呈示したが、いずれも支払を拒絶されたから、ここに被告に対し右手形金合計金一、二八二、四五〇円と、これに対する最終満期日である昭和四二年一〇月二〇日から完済まで手形法所定年六分の利息金の支払を求める。」と述べた。〈以下省略〉。

理由

第一、まず原告の第一次的請求について判断する。

原告がその主張にかかる記載のある手形三通を所持していることは、被告において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきところ、右各手形が被告によって振出された事実については、原告がその証拠として提出した〈証拠〉は他の〈証拠〉に対比して、これを真正に成立したと推定することができないから振出事実認定の資料とすることができず、他に被告振出の事実を肯認するに足る証拠がない。却って右〈証拠〉を総合すると、訴外河田哲司は被告の経理係として、経理部長の滝本常務取締役さらに代表取締役を補佐し、被告の運営資金の調達、金銭の出納、手形、小切手に関する事務を担当し、手形に関する事務については、同訴外人が手形用紙に要件を記入したうえ、被告の社名印その他記名印を押捺し、常務取締役の決裁をえて代表取締役がその名下に押印することによって完成された手形を受取人に交付することをその内容としていたところ、同訴外人において、被告の営業資金を横領した事実を糊塗し、いわゆる経理の穴埋めをすることを目的として、当時経理部が保管していた手形用紙、被告の社名印、及びその代表者の記名印を使用し、別紙目録記載のとおり手形要件を記入したうえ、正当に作成されていた被告名義の小切手の被告代表者名下の印影に謄写版用原紙を当て、上から印判の頭部をこすりつけ、一たん右印影を謄写版用原紙に転写したのち、その印影を更に本件各手形の被告代表者名下に転写する方法により被告振出名義を偽造し、これに訴外津金昇をして裏書させ、株式会社大奥に交付して割引金の交付を受けたのであるが、その頃、被告においては、手形振出しの権限は代表取締役のみがこれを有し、経理部長の滝本にもその権限がなく、いわんや経理係員にすぎない訴外河田に右権限がなかったことが認められる。そうすると、本件各手形になされた被告名義の振出は訴外河田が無権限でした偽造のものというべきである。

第二、次に原告の予備的請求について判断する。

一、訴外河田哲司が本件各手形振出当時被告の被用者であったことは当事者間に争がないところすでに認定したように、右訴外人は経理部長の地位にはついていなかったが、経理係として経理部長滝本を補佐し、手形小切手にその要件を記入し、かつ、被告の記名印等を押捺し、代表取締役印の押印を受けて完成されたものを相手方に交付するなど被告の経理に関する職務に従事していたものであるから、前示のとおり本件各手形の振出を偽造した行為が自己の利益のためなされた不正なものと認められるけれども、これを行為の外形からみるときは、同訴外人の職務行為の範囲内で行われ、被告の事業の執行につきなされたものというべきである。そうすると、被告は同訴外人の使用者として、同訴外人の本件手形振出偽造により第三者たる原告が受けた損害を賠償する義務があるといわねばならない。

ところで、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を考え合わせると、原告が、昭和四二年六月二六日、株式会社大興から別紙目録記載(1)の手形を金四二八、八〇九円で、同月二七日同(2)、(3)の手形をそれぞれ金三六五、〇七二円及び金三八七、二四五円以上合計金一、一八一、一二六円で割引いた事実が認められるところ、原告が本件手形裏書人より内金一七、三四〇円の弁済を受けたことは原告において自認するところであるからこれを控除した残額一、一六三、七八六円と、これに対する原告が株式会社大興に対し本件手形(1)の割引金を交付した日の翌日にして(2)、(3)の割引金を支払った日である昭和四二年六月二七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務が被告にあるといわねばならない。

二、そこで被告の抗弁事実について判断する。

被告は訴外河田の選任及び監督につき相当の注意をしたのにかかわらず、本件手形偽造行為が発生したものであると主張するところ、証人河田哲司の証言ならびに被告代表者本人尋問の結果によると、被告においては、その代表者印は常時代表取締役が自らこれを所持して保管し、その不正使用については相当の注意が払われていたことは認められるけれども、一方訴外河田は、本件各手形以外にも昭和四一年から同四二年一〇月までの間に約五〇通もの偽造手形を濫発していたにもかかわらずその間の事情を被告が全く感知しなかった事実が認められるところであるから、右認定事実を考え合わせると、被告において使用者責任を免れることができる程度に相当の注意をしたということができないから、右抗弁は理由がない。

第三、よって原告の本訴請求中、被告に対し手形金の支払を求める第一次的請求を失当として棄却し、前示損害賠償義務の履行を求める予備的請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条但書を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 内園盛久 坂井宰)

〈以下省略〉

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